先日、ドイツを代表する電子音楽グループ、KraftwerkのオリジナルメンバーFlorian Schneiderが、癌のため他界しました。享年73歳。今日のテクノポップやEDMといった、エレクトロミュージック、ダンスミュージックの先駆者的存在です。「エレクトロダンスミュージックのビートルズ」と呼ばれており、彼らの作品は今でも音楽界に絶大な影響を及ぼしています。オリジナルメンバーであるRalf HütterとFlorian Schneiderは、クラシック音楽教育を受けていた背景や、ドイツ人としての強い自覚から、安易に他国の文化の影響を受けず、自分たちで楽器の改造、開発、デザインして作るというDIY精神や色褪せない音楽性、といったものを培っていったのかもしれません。
Florianは1975年のRolling Stone誌のインタビューで「我々はバンドではない。私は私だし、RalfはRalf。Kraftwerkは自分たちのアイデアを入れる乗り物のようなものだ」と発言しています。「アコースティック楽器から作るサウンドと電子楽器から作るサウンドに区別はつけない。そこに始まりも終わりもない。」音楽制作に対するこうした「始まりも終わりもない」というメビウスの輪的な態度はまさにサンプリングする時の姿勢そのものと言えるでしょう。Florianがシンセで作るメロディは陽気さと陰鬱さ、大胆さを兼ね備えており、アップダウンするビートは、Coldplay, DJ Shadow, そしてAfrika Bambaataaなど様々なジャンルのミュージシャンにサンプリングされています。そんなKraftwerkの曲がサンプリングされている有名曲を「The Hall of Mirrors: 10 Songs That Sample Kraftwerk」からご紹介します。
#1 Cold Play / Talk (2005)
→ Computer Love (Computer World – 1981)をサンプリング
Kraftwerkは自分たちの楽曲をサンプリングされることをとても嫌がっていることで有名だったのですが、Cold PlayのボーカリストChris MartinはKraftwerkのRalfに対し、「まるで中学生のように」自己紹介の手紙をしたため、お願いしたそうです。Ralfは手書きで「Yes」とだけ書かれた返事をくれたということです。
#2 Afrika Bambaataa & the Soul Sonic Force Music By Planet Patrol / Planet Rock(1982)
→ Trans-Europe Express (Trans-Europe Express – 1977)をサンプリング
ニューヨーク・タイムズ紙はこの曲を「1982年のもっとも影響力の高いブラックポップレコード」と伝えています。40年後以上たった今でもその影響は衰えていません。曲の46秒辺りから「Trans-Europe Express」の有名フレーズが絶妙のタイミングで入ってくるのがわかります。
#3 De La Soul – “Ghetto Thang” (1989)
→ Trans-Europe Express (Trans-Europe Express – 1977)をサンプリング
ロングアイランドの3人組De La Soulもデビューアルバム「3 Feet High And Rising」で「Trans-Europe Express」をサンプリング。アメリカの音楽評論家Robert Christgauが「これまで誰も聞いたこともない、全く新しいラップアルバムだ」と評しています。
#4 Stereolab / Emperor Tomato Ketchup (1996)
→ Autobahn (Autobahn – 1974)をサンプリング
ポストロック、エレクトロニカ、インディーロックの間を行き来するような独自の音楽を作り続けるStereolab。彼らのアルバムには”ハズレ”がないと言われています。寺山修司の映画「トマトケチャップ皇帝」(1970)からインスパイアされたアルバム「Emperor Tomato Kechup」(1996)に、彼らの楽曲の素晴らしさが特に見て取れます。アルバムに収録されている「OLV 26」はkraftwerkの「Autobahn」をピッチシフトして使用しており、この曲の外せない要素となっています。
#5 DJ Shadow / What Does Your Soul Look Like (Pt. 4) (1996)
→ Numbers (Computer World – 1981)をサンプリング
Kraftwerkの「Computer World」は、来たるべきコンピューター社会を予見したコンセプトアルバムです。このアルバムを聞いた人はすぐに彼らの音楽を好きになるでしょう。DJ Shadowは自身のデビューアルバム「Entroducing」で大部分をAkai MPC60(サンプラー)で作られています。そのうちの一曲「What Does Your Soul Look Like (Part 4)」はKraftwerkの「Numbers」からサンプリングされています。
#6 The Avalanches / El Producto (1997)
→ Metal on Metal (Trans-Europe Express – 1977)をサンプリング
Kraftwerkのアルバム「Trans-Europe Express」は宝物がたくさん詰まった箱のように、どの曲も未だに色々なミュージシャンに使われています。サンプリングの奇才と呼ばれる、オーストラリアのThe Avalanchesは彼らの1st EP「El Producto」の中の1曲「Rolling High」で「Metal on Metal」をサンプリングしています。
#7 Incubus / Are You In? (2001)
→ The Hall of Mirrors (Trans-Europe Express – 1977)をサンプリング
こちらもKraftwerkのアルバム「Trans-Europe Express」からのサンプリング。オルタナロックのヒットメーカーであるIncubusはサンプリング文化とあまり縁がなさそうですが、こちらの曲では「The Hall of Mirrors」が曲の始まりから絶妙なタイミングで使用されています。
#8 LCD Soundsystem / Sound Of Silver (2007)
→ The Robots (The Man-Machine – 1978)をサンプリング
LCD Soundsystemは、最盛期を過ぎた、もう若くない過去のヒップスター達の救世主のような存在ではないでしょうか。「Get Innocuous!」という曲のこのフレーズ “Away in the half-light / Except today, crushed by the boring / Until played and plagued by the tourists again.” は、Kraftwerk的な精神性を持った曲と言えます。
#9 Scissor Sisters – Night Work (2010)
→ Radioactivity (Radio-Activity – 1975)をサンプリング
Scissor Sistersは、ニューヨークのナイトライフにルーツを持つ、エキセントリックでジャンルを超越したバンドですが、Kraftwerkの「Radioactivity」を拝借した、彼らの「Something Like This」は四つ打ちナンバーとして、ダンスフロアを沸かせています。
#10 New Order / “Blue Monday” (1983)
→ Uranium (Radio-Activity – 1975)をサンプリング
New Orderはポストパンクの代表的なバンドの一つジョイ・ディヴィジョンを前身とするマンチェスターにて結成されたテクノロックバンド。 この曲の1分30秒あたりからの特徴的な男性コーラスはKraftwerkの「Uranium」のサンプリングだと気付かされます。
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